物納

相続税を金銭で納付することが困難で、延納もできない場合に、不動産などの財産を現物で納付することです。通常、相続税は現金で納付されますが、特定の条件下で物納が認められることがあります。この制度は、現金の準備が困難な場合に相続人の負担を軽減するために設けられています。

物納に充てることのできる財産は、国債、不動産、株式などに限定されており、物納するときの優先順位も決まっています。質権や抵当権などがついた財産、共有財産の一部、所有権の帰属について係争中の財産など、売却しにくい財産は物納が認められませんので注意が必要です。

物納が認められる主なケースには以下のようなものがあります:

  1. 不動産物納: 相続財産の中に大きな割合を占める不動産があり、これを売却せずに相続税の支払いに充てる場合。不動産物納は、特に地価が高い地域や大規模な不動産を相続した場合に利用されることがあります。

  2. 有価証券の物納: 株式や債券などの有価証券を納税に充てることも可能です。市場で容易に現金化できる有価証券は、物納の対象として比較的一般的です。

物納に充てることのできる財産の種類と順位は以下のようになります。
第1順位
 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。)
第2順位
 非上場株式等
(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。)
第3順位
 動産

相続税の物納時の財産の評価に関しては、原則として相続財産の評価額と同じ金額で行われます。日本の税法では、相続財産の評価基準が定められており、相続税の申告時にはこの基準に従って財産を評価します。この評価額は、その後の物納においても基本的に同じ価値として扱われます。

物納を希望する相続人は、相続税の申告時に物納を申請する必要があります。税務署は申請を受けて個別に審査し、物納が適切かどうかを判断します。物納が認められると、その財産は国に帰属し、国はその財産を処分して税収に充てることになります。

物納制度の利点は、現金の準備が難しい相続人が大きな財産を相続した際、相続税の支払いに柔軟に対応できる点にあります。しかし、物納を利用する際には、財産の評価や処分に関する複雑な手続きが伴うため、専門家の助言を得ることが推奨されます。物納は、財産の性質や相続人の状況によって異なるため、個別のケースに応じて適切に選択することが重要です。

この記事を書いた人

税理士・中小企業診断士・行政書士 落合和雄
2005 年 3 月 税理士士登録(東京地方税理士会所属)
1987 年 1 月 中小企業診断士登録(東京都中小企業診断士協会所属)
2016 年 1 月 行政書士登録(神奈川県行政書士会所属)
税理士登録以降、相続案件に力を入れ、現在年間約 70 件の相続の相談に応じています。また、中小企業診断士として年間約20件の M&A を含む事業承継の相談に応じています。行政書士としては、遺言書の作成、家族信託の支援も数多く扱っています。
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